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5日前9 分

富士山で今何が?登山規制など直近の動向まとめ&突然の動きに見る日本のインバウンドの未来

今回のテーマはまもなく山開きを迎える富士山!観光地として知られている富士山ですが、登山を考えているなら、十分な情報収集と準備が必要です。

そこで、記事の前半は富士山登山を考えている方に「これだけは知っておいてほしい」情報をご提供いたします(情報の正確性には十分注意を払っていますが、出典のリンクからご自分でも確認なさることをおすすめいたします)。

そして、記事の後半では、国内外の観光客が多く訪れる日本のシンボルともいえる富士山をテーマに、今の日本の観光地で何が起きているのかについて取り上げます。2024年5月に日本を訪れた外国人旅行者は304万100人で、1か月として過去最多を記録した3月から3か月連続で300万人を超えました。記録的な円安の影響によるインバウンドの増加により、観光地は盛り上がりを見せるとともに、いわゆる「オーバーツーリズム」の問題を引き起こしており、環境保全と経済活性化の両立が問われています。

富士山を含む観光地をめぐり、訪れる側と迎える側が思いに留めておきたいことについて、考えてみたいと思います。

富士山は簡単に登れる山ではない

富士山のオーバーツーリズムですぐに思い出すのは、最近の「富士山ローソン黒幕問題」かもしれません。これはインスタなどで「映える」富士山を撮影したいという観光客のニーズが元になっていますが、富士山の醍醐味はやはり登山です(何と言っても「山」ですから!)。

観光客の中には軽装で登る方も少なくないようですが、富士山の基本情報として以下のことを知っておく必要があります。

・富士山の高さは3,776メートルで日本一の高さ、決して登りやすい山ではない。2023年の遭難者数は69人で全国の山で最多だった。

・富士山は過去に何度も噴火を繰り返した活火山である。

・五合目以上の登山道は夏の間、約2か月しか登れない。

有名かつ多くの人が登るからといって富士山は簡単に登れるわけではありません。もし、登山を予定しているのであれば、相手は大自然であることを忘れずに畏敬の気持ちを持ち、前もって十分に情報収集してから臨むことが最低限必要です。

富士山の基本情報

「富士山に登りたい!」と思ったあなた、以下の情報を参考にして富士山登山の準備をしましょう。

富士山登山の装備

富士山にかぎらず、登山を思い立って最初に揃えるべきアイテムは登山靴(もしくはトレッキングシューズ)です。山道はすべりやすく、転倒の危険が高まりますし、長時間歩いていると疲れて足首などを怪我しやすくなります。そんなリスクから登山靴は私たちを守ってくれる重要なアイテム。くれぐれも、日本一の高さを誇る富士山にスニーカーで挑まないように!登山前はしっかり下調べをし、準備を怠らないことが重要です。

また、山の天候は平野と大きく異なります。天候が変わりやすく、いつ雨が降り出すか分からないため、雨具が欠かせません。傘を持っていく方はいないと思いますが、コンビニなどで売っているレインコートも NG です。標高の高い場所では強風であおられて破れてしまい、むしろ富士山のゴミを増やす可能性があります。きちんと耐久性に優れた上下で分かれた登山用の雨具が理想です。

また、富士山の山頂は夏でも0℃以下になることも。ダウンジャケットや手袋、フリースなどの防寒具も欠かせません。

さらに天候が変化しやすいため、体調を崩してしまうこともあり得るでしょう。そのため、登山の行程が予定通りに進まず、下山が遅れることも想定しなければなりません。山中ですから日が暮れると真っ暗で、何も見えない状態になります。そのため、日が暮れる前に下山する予定だったとしてもヘッドランプは必ず持参しましょう。懐中電灯は両手が自由に使えないため NG です。

富士山登山を断念する方のほとんどが高山病だといわれています。高山病は、水分の適切な補給をすることで防ぐことができます。水分補給用のスポーツドリンクに加え、ミネラルウォーターも準備しておきましょう。また、チョコレートやナッツ、クッキーなどの塩分やカロリー補給のための行動食も忘れずに。

ほかにも速乾性の肌着、日よけの帽子、地図(地図アプリ)、応急手当キット、タオル、噴火に備えたヘルメットやゴーグル、マスクなども準備しておきたいところです。

富士山へのアクセス

富士山登山の装備が整ったら、いよいよ富士山に向かいましょう。

富士山の登山ルートは「吉田(よしだ)ルート」「須走(すばしり)ルート」「御殿場(ごてんば)ルート」「富士宮(ふじのみや)ルート」の4つがありますが、それぞれの登山口は富士山の五合目付近です。

そして、各登山口まではマイカー、バス、タクシーでアクセス可能です。ただし、マイカーは各ルートによってマイカー規制の期間があるため、その場合はふもとの駐車場でシャトルバスに乗り換えます。

注意したいのは冒頭でも触れた通り、富士山の登山シーズンはごく限られているということです。以下の表にも記載していますが、計画を立てる際にはオフィシャルサイトを必ず確認してから登るようにしましょう。

弾丸登山とは?

「弾丸登山」という言葉をお聞きになったことがあるかもしれません。通常、富士山のご来光(山頂での日の出)を見るためには、前日朝に五合目登山口をスタートし、夕方には山小屋に到着、一泊してから山頂を目指すのが一般的です。しかし、夜通しで一気に山頂を目指し、ご来光を見てすぐに下山する登り方を弾丸登山といいます。

一部の無茶な人だけが行う登り方のように思われるかもしれませんが、研究者の調査によると、2013年に富士山が世界文化遺産に登録される前の2011年夏の登山者の3割は弾丸登山だったといいます。

ただ、現在では弾丸登山には睡眠不足による体力低下が引き起こす高山病や低体温症のリスクがあるとされています。また、山梨県は、弾丸登山者が増えることで山頂付近で登山渋滞が発生したり、滑落や落石事故のリスクも高まったりするとして注意を喚起しています。

2024年から登山者がもっとも多い吉田ルートでは、弾丸登山・混雑対策として以下の通行規制が行われます。

「富士山に登るのであれば必ず山頂からご来光を見なければならない」という気持ちは分かりますが、富士山の登り方はさまざまです。吉田ルートであれば5合目以上のどこからでもご来光を見ることができますし、ほかの3つのルートでも山頂でなければご来光が見れないわけではありません。回りがいそいそと出掛ける中、山小屋でゆっくりご来光を楽しみ、明るくなってから人が少なくなった山頂を目指すのも良いかもしれません。

富士山でいま起きていること

SNS で紹介されたことがきっかけで2年ほど前から外国人観光客の人気撮影スポットとなった「ローソン河口湖駅前店」。コンビニの駐車場だけでなく、道路を挟んだ向かいの歯科医院前から撮影する観光客が激増し、ゴミのポイ捨て、横断歩道ではない場所を渡るなどの危険行為が相次いだことから、2024年5月21日に富士河口湖町は高さ2.5メートル、幅20メートルの目隠し幕を設置しました。

5月24日に開かれた記者会見で富士河口湖町の渡辺英之町長は「大幅に人が減り、改善に向かっている」と成果を強調。一方で設置直後から幕には小さな穴が開けられ、そこからスマホのカメラを使って富士山を撮影しようとするケースもあるなど、イタチごっこは続いているようです。

黒幕設置の是非やオーバーツーリズム対策に関してはワイドショーや SNS ですでにさまざまな議論がなされていますので、ここでは控えたいと思います。

むしろ、ちょっと立ち止まって考えてみたいのは私たちにとってそもそも「観光とはなにか?」という問題です。

ローソン前に黒幕設置を余儀なくされたのは、富士山を訪れる大勢の観光客の「ローソン×富士山の映える写真を撮り、自分のものにしたい」という所有欲求であり、それをシェアすることで得られる承認欲求であることは間違いないでしょう。それらの欲求を満たすことで、人は誰しも「自分で自分の人生をコントロールしている」という全能感を得たいのかもしれません。

そこで思い出したのは作家のジェイ・ジェニファー・マシューズ氏の「人生から何かを得ようなどと思うな。何かを取り出して持ち帰れるような外部など、存在しないのだから。自分は今この瞬間に絡めとられていて、その外側には何もない」という言葉です。

この言葉に基づくなら、どれだけ観光地で「映える写真」を撮りためても、(データとしてスマホやクラウドには残っているかもしれませんが…)それを本当に「持ち帰れる」わけではありません。なぜなら、その人は富士山をいま見ているという瞬間に自分も含まれているという本質的な事実を無視しているからです。

とはいえ、多くの観光地で行われているオーバーツーリズム対策自体が観光客のスマホ所有を前提にしているため(例えば、ローソンの前の黒幕には QR コードが貼り付けてあり、読み込むことで別の富士山スポットを紹介し教えてくれるなど)、「スマホを捨て、旅に出よう!」というのは非現実的かもしれませんが、富士山にしても、他の別の場所でもそこに自分の身を置けていることの奇跡を噛みしめるような観光をしたいものです。

観光研究の専門家であるヴァレン・L・スミス氏が「ホスト・アンド・ゲストー観光人類学とはなにか」という著作の中で言及した観光の定義も参考になります。

観光=余暇時間+自由裁量所得+肯定的な地元の承認

つまり、観光客が持つ時間と所得に加え、地元の肯定と承認があってこそ「観光」ははじめて成立するということです。このバランスが崩れた状態、つまり訪れる側の過剰な要求や傍若無人な振る舞い、あるいは受け入れる側に生まれるネガティブな感情や拒否はすでに「オーバーツーリズム」状態なのです。

まとめ

これから富士山を訪れることを考えている方は、登るにしても写真を撮るにしても、「富士山から何かを得よう」などとは思わず、その瞬間に思いっきり「絡めとられる」ようにしてください。そして、富士山とそこに住む人たちの肯定や承認があってこその観光であることを噛みしめて観光を満喫していただきたいと思います。

参考文献:

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著者プロフィール

YOSHINARI KAWAI

2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。

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