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執筆者の写真SIJIHIVE Team

ちょっと気になる?近そうで実は遠い中国オフィスファッション


コロナ禍によるテレワークで日本人のビジネスファッションは大きく変化しました。毎日オフィスに出かけていた頃は上司や同僚の目が気になり、スーツやネクタイにお金をかけていたけど、テレワークではぐっと敷居が下がって助かっているという方も少なくないのでは?もちろん、自宅でも Zoom を使ったミーティングなどほかの人から見られる機会はあるため、あまりだらっとした恰好は NG ですが…


ビジネスに限らず、私たちは基本的に2つの要素を考慮してファッションを選んでいるように思います。それは「自己表現」と「TPO」です。テレワークによって私たちの服装が変化したのは日本人が TPO を重視するからなのかもしれません。


TPO によってファッションが変わるなら、国によってもオフィスファッションは変化するはずです。そこで、今回は中国のオフィスファッション事情(筆者が男性のため一旦メンズ限定)について取り上げてみたいと思います。


中国でスーツにネクタイはほとんど見ない


中国大陸で働いたことのある方なら認められる点だと思いますが、中国でスーツにネクタイ姿の人を見かけることはほとんどありません。個人的な観察で恐縮ですが、スーツにネクタイ姿といえばすぐに思い出すのは家探しのたびにお世話になった不動産会社の営業マンの方々くらいでした。


大部分の人たちはいわゆる課長部長クラスの人たちを含め、夏はポロシャツにジーパンやスラックス、冬はセーターなどを着こんだ、日本人が考える「普段着」で仕事をしています。むしろ、経営層になればなるほど、スーツ姿にネクタイを見かけることはなくなります。


開発者人口が多い IT 系企業だと、カジュアルな服装はより一般的

日本人からすると「TPO をわきまえないで大丈夫?」と心配になるのですが、彼らは「TPO をわきまえない」からスーツを身に付けず、ネクタイをしめないのでしょうか?


スーツは西洋の文化


中国では、スーツは欧米諸国の正装であると考えられています。


彼らにとって正式な服装とはスーツではなく、「中山服(ちゅうざんふく)」(日本では「人民服」と言われるが、中国では中山装「Zhōngshānzhuāng」)です。


由来は「中国革命の父」「国父」ともいわれる孫中山(日本では「孫文」と言われるが、中国では「孙中山」と呼ばれることが多い)に由来します。今でも中国の全国人民代表大会の時など、習近平国家主席が身に付けているのを見たことがある方も多いのではないでしょうか?


そのため、中国の人たちは自分たちがスーツを身に付けるのは、欧米人が中山服を身に付けるようなもので、どこか奇妙な感じがするようです。


スーツがもともと正装ではなかったのは日本でも同じです。では、なぜ日本では中国と異なりスーツが礼服として定着したのでしょうか?


日本がスーツを着るようになったのは幕末から明治維新のころだったといわれていますが、一般男性にも定着しはじめたのは明治20年以降です。それを後押しした背景には明治5年(1872年)に明治天皇の勅諭によって「洋服が礼装」として採用されたことがあります。皇族が今も公務でスーツを着用するのは、この規範を現在も踏襲しているからだそうです。

(ほかにも多くの理由があると思いますが…)


スーツは動きにくい


中国のビジネスマンがスーツにネクタイ姿をあまり好まない別の理由として、単純にスーツが動きづらいという理由も挙げられます。


中国人が好きな成語のひとつに「实事求是(Shíshìqiúshì)」があります。これは「事実に基づいて真実を求める」という哲学的な意味もありますが、日常生活の中でも「実際に即して行動する」という意味も含んでいます。つまり、中国のビジネスマンは働く時には動きやすい労働にふさわしい服装をすべきだと考えているのです。



スーツは堅苦しい


中国のビジネスマンにスーツにネクタイがあまり好まれないもう1つの理由として、彼らのコミュニケーションスタイルがあります。一般的に中国文化ではビジネスにおいても日本で行われるような、お互いスーツでびしっと決め、名刺交換をしてからテーブルに向かい合い商談するようなスタイルは好まれません。


いわゆる「普段着」で名刺交換などせず、握手をしたら円卓を囲んでお酒を飲みながら食事するのが彼らの「商談」です。お互いに観察しているのは売りたい製品やサービスではなく、人柄であり、相手が信頼に値するのかどうかということ。どちらが良い悪いの問題ではなく、あくまでも文化の違いですが、もしこの「商談」の場にスーツ姿でやってこようものなら、相手との距離感を感じざるを得ません。

日本人はスーツにネクタイで相手に対する「敬意」を伝えようとしますが、中国でのビジネスにおいては「堅苦しく」感じられるのです。


「江南の橘、江北の枳(からたち)となる」



中国には「橘生淮南则为橘,橘生淮北则为枳(Jú shēng huáinán zé wèi jú, jú shēng huáiběi zé wéi zhǐ)」ということわざがあります。直訳すると、「蜜柑の木は淮河の南に植えられると蜜柑が実るが、淮河の北に植えられると枳(からたち)になる」という意味です。


淮河とは中国の長江、黄河に次ぐ第三の大河であり、伝統的に中国の華北地方と華南地方の境界線とみなされています。よく中国では「自分は北方出身」とか「わたしは南方の人間だ」といった言い方をしますが、基本的にはこの淮河を挟んで北か南かを念頭に置いています。

「枳(からたち)」は漢方では使用されますが、鋭い棘があり、蜜柑のように実を食べることはできません。つまり、前出のことわざは「環境がかわると事物の性質は変化してしまう」ということ。


日本ではビジネスファッションとして定番のスーツも中国では「枳(からたち)」になってしまいます。中国のビジネスマンと交渉するときは「TPOをわきまえて」スーツを脱ぎ、ネクタイは外して、ラフな格好で彼らの懐に飛び込みましょう。


参考サイト:

「中国人为什么穿西装的越来越少?」

「あなたはなぜ、スーツを着ているのか?歴史と変遷、その理由」

「江南の橘、江北の枳となる」


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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。








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