今回のブログでは、中国で近年ブームになったちょっと面白いトレンドについてご紹介します。
先にお伝えしておきますが、日本ではカタカナで表記される外来語も中国ではすべて漢字に変換されます。そのため、発音してはじめて、「あ、なるほど、この言葉のことね…」と腑に落ちる単語もあります。まずはこれを覚えておいてください。
早速ですが、クイズです。
「多巴胺(Duōbā'àn)」
発音してみて、何を表すかお分かりになりますか?
正解は、幸せホルモンとして知られる「ドーパミン」。ピンインに沿って発音すると、「ドォーバーアン」になり、なぜ最後の一文字が「ミン」ではなく、「アン」になってしまったのか、日本人からすると何だか「座りが悪い」ような感覚になってしまうのですが、とにかく今日のテーマは昨年から中国を盛り上げている「ドーパミン」ブームのお話です。
そもそもドーパミンとは?
ご存じの方も多いと思いますが、ドーパミンとは脳と側坐核から分泌される神経伝達物質で、やる気を引き出したり、幸せな気持ちにさせて意欲を生み出したり、集中力をアップさせたりする効能があるといわれています。
ドーパミンは私たちの感情や記憶、思考、理性、意識、理解など心の機能に深く関与し、人格形成においても重要な役割を果たします。しかし、過剰にドーパミンが放出されると、ギャンブルや飲酒、喫煙などにのめり込んでしまうため注意も必要です。
ドーパミンが中国でブームになった経緯とは?
さて、中国の「ドーパミンブーム」とは、ドーパミンの本来の意味から派生して、やる気や元気が出るカラー、カラフルな商品パッケージやデザイン、そしてそのトレンドに則ったマーケティング手法を指します。
そのブームの火付け役になったのは、ユーザー名「白昼小熊」さんが「抖音(中国版 TikTok)」に投稿したカラフルなコーディネートで楽し気に歩く姿を撮影した動画だったと言われています。この動画がきっかけとなって SNS 上に「多巴胺穿搭(Duōbā'àn chuān dā)=ドーパミン・ドレッシング」というワードに注目が集まるようになりました。
最初はファッションからスタートしたドーパミンブームですが、その後はメイクや飲食、レストランのメニュー、製品のデザイン、観光などにも飛び火し、ドーパミンのそもそもの意味から飛躍してとにかく「カラフルで元気が出る!」をテーマにしたものが中国に溢れることになったのです。
ドーパミンカラーでコーデ!
*画像は弊社にて AI で生成
ドーパミンブームの火付け役ともなったドーパミンカラーを使ったコーディネートは上述したように「ドーパミン・ドレッシング」と呼ばれています。この言葉はこの度のブームで生まれたのではなく、アメリカの心理学者ドーン・カレンが提唱したものです。その著作によると、「明るい色はポジティブな気分を引き出し、幸福ホルモンの1つであるドーパミン放出が促進される」とのことです。
「百度百科」によると、2023年に中国で「ドーパミン・ドレッシング」が流行した理由として、コロナ禍において人々が経験した言葉に表せない気持ちの落ち込みを挙げています。コロナ後の2023年になって、人々は元気がでる色をまとい、いわば衣服により自らを癒そうとしたことがドーパミン・ドレッシングの流行につながったというのです。
抖音で「多巴胺穿搭」を検索すると、老若男女が色とりどりのカラーをまとって軽快に歩く自撮り動画がたくさん見つかります。中には81歳のおばあちゃんの「ドーパミン・ドレッシング」動画や、「多巴胺男孩(ドーパミン男子)」「多巴胺甜妹(ドーパミン少女)」を自称する人たちも登場し、見ていると確かに元気になってきます。
ドーパミンスポットで「映える」!
さらに元気になる明るい色で彩られた特徴のスポットをめぐる「ドーパミン旅行」もブームになりました。中国ではコロナ禍を経て、若い世代が旅行する意義が大きく変化したといいます。別の記事「2024年最新中国トレンドワード」で紹介した「Citywalk」然り、若者たちは今やどこか良く知られている観光地に向かうことではなく、あまり知られていない場所であっても、興味深い場所を訪れ、そこで写真や動画を撮って投稿し、旅のプロセスを楽しむようになっているのです。「ドーパミン旅行」もそのニーズの延長線上にあるように思われます。
ちなみに若い世代が好む「ドーパミン旅行」の目的地 TOP10は以下の通り。有名な観光地とはかけ離れた場所ばかりですが、特徴はどのエリアの童話に出てくるようなカラフルなスポットばかりです。気になる方は「百度一下(百度で調べてみて)!」
ドーパミンドリンクで充電!
巷では、ブームに乗ってさらに派生した「ドーパミンドリンク」なるものも登場しています。色鮮やかで「映える」としても、着色料がたっぷり入っていて体に悪そう…というイメージがあるかもしれません。しかし、ドーパミンドリンクの多くは色鮮やかなフルーツを使ったドリンクであり、実は逆に健康的。
ドーパミンの原料になるのはタンパク質であり、その中のフェニルアラニンやチロシンだといわれています。果物でいうとこれらの成分はアボカドやバナナに含まれていますが、ドーパミンドリンクを飲むことでダイレクトにドーパミンが増加するわけではないので悪しからず…。
まとめ
ドーパミンブームはコロナ禍がもたらした閉塞感から何とか抜け出したいという中国の人々のささやかな抵抗ともいえるのかもしれません。自分を取り巻く世界を変えることはできなくても、自分が身に着けるファッションや口にする食べ物、行きたい場所は選ぶことができます。
では、なぜ日本では同じような現象が生まれなかったのでしょうか。日本ではコロナ後、若者たちの多くがコスパ重視のファストファッションを身に着け、他の人からどう見えるかを重視し、周りに溶けこもうとするトレンドが強いように感じます。
もしかしたら、やる気や元気を前面に押し出す中国のドーパミン文化に対して、日本はドーパミンを抑制する「セロトニン」文化なのかもしれません。興奮と抑制、どちらも「幸せホルモン」であり、困難に直面した時の対処の仕方や幸せの求め方も文化によって異なるようにも思えます。
参考サイト:
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。
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