翻訳とは、単に日本語の単語を英語の単語に置き換えていく(もしくはその逆)作業ではありません。特にキャッチコピーの翻訳は短い言葉で見る人の心を動かすことが必要です。そのため、柔らかい頭や豊かな発想が求められます。
英語のキャッチコピーを見た時、英語を母語とする人は何らかの情景を頭の中に思い描いたり、心がハッとしたり、ワクワクしたりします。誤解を恐れずにいえば、目指したいキャッチコピーの翻訳とは、翻訳した日本語を見た人にもほぼ同じインパクトを与えることです。大事なのは「字面」ではありません。その先にある「見る者の内面の心の動き」なのです。
というわけで、今回はキャッチコピー翻訳をテーマに、分かっているようで意外に分かっていない「キャッチコピーとは何か」、「キャッチフレーズ、スローガンなどどう違うのか」を取り上げます。また、いくつか事例を取り上げ、英語のキャッチコピーの訳し方のコツについて解説してみます。
キャッチコピーとは
キャッチコピーとは、サービスや製品を魅力的に見せたり、認知度を上げたりするために使われる短いフレーズです。キャッチもコピーも英語に由来しますが、「キャッチコピー」は和製英語です。消費者の興味を"catch"(つかむ)”するための宣伝文句である "copy"(広告文)”という意味で使われているようです。
紛らわしいマーケティング用語解説
紛らわしい英語に「catch phrase(キャッチフレーズ)」があり、キャッチコピーと同じように使っても良いのでは、と思うかもしれません。しかし、catch phrase は繰り返し使われることで認識されている語やフレーズであり、ニュアンスがやや異なります。
例えば、少し古いですが、ジェームズ・キャメロン監督の映画『ターミネーター』
で、主演のアーノルド・シュワルツェネッガーが使った「I’ll be back」という言葉を覚えている方も多いでしょう。映画だけでなく、さまざまなメディアで繰り返し使用されることで、徐々に広く浸透するようになり、「シュワルツェネッガーといえば ”I’ll be back”」というイメージが定着しました。これが catch phrase の分かりやすい例です。
スローガンとキャッチコピーの違い
また、日本語での「スローガン」はキャッチコピーのニュアンスとやや異なります。スローガンは企業や組織が自らの理念や目標を端的に表した言葉で、その目的は企業の価値観やビジョンを顧客に伝え、ブランドの認知力を高めることです。そのため、一般的にスローガンは長期にわたって使用されます。
具体例としてナイキの「Just do it」やアップルの「Think Different」などが挙げられます。いずれもフレーズを聞いたときに思い出すのは、特定の商品ではなく、企業やその企業の商品すべてに共通しているイメージやブランドではないでしょうか?
それに対してキャッチコピーは特定の製品やキャンペーンの際に作られるため、そのライフサイクルはスローガンほどは長くありません。
タグラインとキャッチコピーの違い
さらに似た言葉に「タグライン」があります。タグラインは多くの場合、企業のロゴと共に使用され、ブランドの本質や価値を一言で表すものです。スローガンに似ていますが、使用範囲はより限定的といえるでしょう。
タグラインもキャッチコピーとは対象が異なり、一般的に長期にわたってロゴと共に使用されます。
英語のキャッチコピーの例
さて、いよいよ英語のキャッチコピーの例を一緒に翻訳してみましょう。相手に「思い」が伝わる翻訳を目指してくださいね。
Grammarly
グラマリーは英語のスペルチェックをしてくれるツールです。キャッチーな広告を出しており、翻訳者としては毎回見るのが楽しくなります。
出典:こちら
例えば、この「WRITE THE FUTURE」、あなただったらどのように訳しますか?
Adidas
出典:こちら
ナイキのスローガンについては上述しましたが、アディダスもキャンペーンやシリーズごとにかっこいいキャッチコピーを打ち出しています。
「SPORTS LOOKS GOOD ON YOU.」
あなたならどのように訳しますか? アディダス のブランド、スローガンにぴったりとハマる訳はなかなか難しいように感じます。
TOYOTA
出典:こちら
トヨタも英語で数々の広告を出しています。上の「SEEN, NOT HERD.」はどうやら英語のことわざ「seen and not heard」をもじったミームのようです。
このことわざの意味は「子どもは姿を見せてもいいが、話すべきではない」という意味。かつて英語圏では子どもは来客との食事に同席した場合、大人に話しかけられるまでは話してはならないという規律やしつけがあったといいます。
おそらく言葉遊びで、ことわざの意味とはあまり関係がなさそうですが、左下の「DON’T BLEND IN.」というフレーズとも調和する翻訳が求められそうです。あなたならどう訳しますか?
キャッチコピー、どう訳す?
上のキャッチコピー、訳せましたか?
以下では弊社が訳した日本語訳の例をご紹介します。
1.WRITE THE FUTURE
未来を、ともに「書」こう
ライティングの未来がここに
進化するAIライティング
グラマリーのサービスと結び付けて、時代を超越したライティングが可能になる世界を想像してみました。
2.SPORTS LOOKS GOOD ON YOU.
スポーツを、人生のステージに。
アスリート、それはひとつの生き方。
スポーツが好き。その輝きこそ無敵。
スポーツブランドは、とにかく格好いい!アディダスのブランドとハマるコピーを考案してみましたが、どれがいいと思いますか?
3.SEEN, NOT HERD.
孤高の存在感。
群を抜く、佇まい。
ビジュアルでは、他の車は透明でトヨタの RUKUS(ルークス)だけがカラーになっていることから、「herd(群れ)」に埋没するのではなく、他の車に抜きんでたクールなデザインであることを推したいことが読み取れます。そうしたマーケティング戦略も考慮に入れて考案したコピーです。
まとめ
今回は、キャッチコピーの翻訳を通じて、マーケティング翻訳の面白さ、醍醐味を感じていただけたかと思います。ご紹介したのはあくまでも参考例なので、もっと心に刺さる訳を思いついたら是非教えてくださいね。
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。
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