かつて中国で生活していたとき、よく行っていたお気に入りのスポットがありました。それは「批发市场」(Pīfā shìchǎng)、つまり卸売市場です。日本では、一般消費者が卸売市場で買い物できない仕組みになっていますが、中国では小売店業者だけでなく、誰でも安いものを手に入れたいなら入ることができる場所です。
帰国する際にはおみやげを買いに、お茶を扱う卸売市場に良く行ったものです。同じ「鉄観音茶」でも広大な敷地に何十軒、何百軒という店舗が軒を連ねていますので、一体どこが安いのか、質の良い商品を扱っているのかは判別不可能です。しかし、何度か足を運ぶうちに徐々に業者の選び方が分かってきます。
それは、一つは、決して華美じゃないけど清潔感のある整った店構え。そして、もう一つは店主に人間味があること、言い換えれば商売根性丸出しじゃない、ということです。
さて、いまわたしたちが日常的に接している Web の世界も似たようなところがある、とお感じになるかもしれません。まさに星の数ほどあるサイト、皆さんはどうやって選んでいますか?あるいは運営者の方であれば、多くのユーザーの目に留まるようにどのように工夫されていますか?人それぞれ(特にマーケティング担当者の方であれば)独特の「嗅覚」を培っておられると思いますが、わたしが卸売市場で養った感覚と何となく似ているかもしれません。それはきちんと手入れされている、センスの良いデザインや温かみを感じるコンテンツではないでしょうか。
弊社は Web サイト翻訳も行っているため、私たちも様々な Web サイトの文章構成やレイアウト、他言語からの翻訳であればそのクオリティに注目してしまいます。そして、その中で時々「残念」な翻訳を目にすることもあります。もともと他言語からわざわざ日本語に翻訳している(あるいはその逆)ということは、運営側としてもより多くのユーザーを獲得したいとの意図を持っておられるはずですが、見るからに「自動翻訳でそのまま翻訳しっぱなし」では逆効果になってしまいます。
今回の記事では、マーケティング翻訳の中でも最近比重が高くなってきた「Web サイトの翻訳」について、基本の考え方とポイントをご紹介していきたいと思います。
1. Web サイトの重要性
2. Web サイト翻訳はなぜ難しいのか
3. 【ミニテスト】 マーケティング翻訳に挑戦!
4. サイト翻訳を依頼するときのヒント
5. 【テスト回答】さあ、あなたの答えは?
1. Web サイトの重要性
一昔前、Web サイトは企業や店舗に関する情報を紹介するツールに過ぎず、そうした情報が古くならないように時々更新しておけばよい、という程度の認識だったかもしれません。いわばパンフレットの電子版のような存在でした。
しかし、今そんな Web 運営をしている方はおられないでしょう。Eコマースが生活のあらゆるシーンに入り込み、それに加えてこのコロナ禍です。私たちはもはや実世界よりもWeb の中で時間を過ごしている時間のほうが長いのでは、と思ってしまうほどの日常に生きています。
そうした日常において Web サイトとはまさに企業やお店の店構えであり、イメージやブランドを決める入口だと言えます。ちらっとみて、「センス良くない」「品揃え悪そう」「品質悪そう」「面白くなさそう」「商売根性丸出しで嫌だ」と判断されれば、どれだけクオリティの高い商品、サービスを提供していても相手にされないこともあるかもしれません。
(英国ブランド「Superdry (極度乾燥しなさい)」のように、明らかに狙っているか、ファッションの一部として成立している場合は別ですが…)
オンラインビジネスを行っている方に限らず、「名刺をもらったらまずその人・会社の Web を見てみる」「お客さまが知りたい情報をサイトに詳しく掲載して、“詳しくは Web をご覧ください”という形で活用したい」という方も増えており、今や Web サイトはビジネスの信頼を形作るツールとして成長しています。
2. Web サイト翻訳はなぜ難しいのか
そもそも、翻訳という言葉は必ずもと(原文)が存在する単純作業として捉えられることが大半で、「難しい」という認識であまりみられないのが現状です。
そこでまず、前提としてお伝えしたいのは「マーケティング翻訳は一般的な翻訳とは違う」ということ。
マーケティング翻訳とは広告や Web サイト、SNS、パンフレット、プレゼンテーションなど、販促を目的とした資料を翻訳することを指しますが、
上記の一般的な翻訳を「ある文書を原文に忠実に翻訳すること」と捉えれば、マーケティング翻訳の真髄は「読み手にアクションを起こしてもらえるような、メッセージ性の高い翻訳を提供すること」です。
そのため、「原文に忠実に翻訳する」よりも、「さらに魅力的な表現に置き換える」というステップに比重が置かれることになります。
例えば、かつて大阪メトロの英語サイトに地下鉄の路線の一つ「御堂筋線」が「ミドウスジマッスルライン」と翻訳されたことがありました。おそらく「筋線」という単語をピックアップした翻訳ツールの仕業でしょう。
この英語コンテンツを見て、「さすが大阪!笑いに徹している!」と拍手喝采する方はいないでしょう。おそらく大多数の方は「大阪メトロ、大丈夫?」「なぜちゃんとチェックしなかったの?」と感じるはずです。たった一つの誤訳が「大阪メトロ」という企業に対しての信頼を損ないますし、これは Web サイトがその企業のイメージ全体をも左右してしまうという、一つの例と言えます。
3. 【ミニテスト】 マーケティング翻訳に挑戦!
さて、違いを少々お伝えしたところでミニテストのお時間です!
以下は、ビジネススローガン(キャッチコピー)を作成してくれる「SLOGAN GENERATOR」の Web サイト(※1)。あなたなら、この 3 要素をどのように日本語に翻訳しますか?
1. タイトル
2. 説明
3. ボタン名
5 分ぐらいお時間を取って、ぜひ挑戦してみてください。
弊社チームによる回答はこの記事の最後でご覧いただけます。
4. Web サイト翻訳を依頼するときのヒント
「自社も英語版のコンテンツを作りたい」、あるいは「他言語を翻訳して日本語版のコンテンツを作りたい」と考えている方もおられるかもしれません。
手っ取り早いのは、Google 翻訳などの翻訳ツールを使って自分で翻訳することです。確かに無料で利用できる翻訳ツールも以前に比べて各段に精度が上がっていますが…、試しに「かつ重」という単語を Google 翻訳を使って英語に翻訳してみてください。きっと「まだまだか…」とため息をつきたくなるはずです。
弊社も行っている「ローカライゼーション(localization)」というサービスがあります。日本語では「現地語化」と訳されることもありますが、それぞれの言語の特性や特徴、あるいは現地の文化などに適合するよう訳文を整えることです。厳密にいえばローカライゼーションという大きな枠組みの中に「翻訳」があり、その中に弊社が手掛けているような Web サイトの「マーケティング翻訳」が存在するというイメージです。
翻訳は単語をただ置き換えていって、組み合わせる作業ではありません。そうなってしまうと、まるで雑多な商品を棚につめこんでいる卸売市場のお店のよう。品揃えは良いかもしれませんが、お客の足がそこに向くことはありません。
同じように、ローカライゼーションを経ないで訳された文章は、単語はほぼ正確に翻訳されており、意味も通じるかもしれませんが、魅力に欠けます。例えば、Web コンテンツに限らず、日本語では改行の位置がとても重要になります。日本語の独特のリズム、行間、読み手に判断をゆだねる曖昧さなど、改行がなければ違和感が生じますし、日本語の語感の魅力も半減してしまうのです。訳した文章を細かい字で画面いっぱいに詰め込めば良いわけではありません。
Web サイト翻訳を依頼される場合は、どの言語であってもネイティブスピーカーやその言語・文化に精通したメンバーが所属し、最終的なレイアウトのチェックまで任せられる会社を探されることをおすすめいたします。整った読みやすい訳文だけでなく、センスやその言語がもつ温かみまでも感じることができる Web サイトは御社を美しくブランディングしてくれるはずです。
5. 【テスト回答】さあ、あなたの答えは?
さて、セクション 3 でご紹介した「スローガン・ジェネレーター」のサイトですが、皆さんはどのように翻訳されたでしょうか?
正解はないのですが、機械翻訳と弊社のアイデアを以下でご紹介します。
まず、Google 翻訳だとこのようになります。
(こんなサイト、見たことあるような…)
弊社のご提案はこちら。
パターン 1 も 2 も、「原文に忠実に」よりは「見て一瞬で使ってみたくなるかどうか」に重点を置いています。
ブログ記事のようなまとまった文章はまた別ですが、このようなサイトのタイトル・説明の場合は、原文の意図をもとに全く異なる日本語のコピーを提案することもよくあります。
もちろん、お客さまの意向にもよるため
弊社では必ず「原文に近い」バージョンと、「販促面でより魅力的な」バージョンを混ぜて2~3 パターン提案するようにしています(※2)。
さて、マーケティング翻訳について少しでも何かを感じていただけたでしょうか?
たった一行のコピーを翻訳するだけで数十分、ときには 1 時間以上考えてしまうことも多々ありますが、これからも私たちの言葉を通じてお客さま、読者の皆さまに何らかのメッセージを伝えていくことができれば幸いです。
翻訳やコンテンツ作成のご依頼やご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください!
(一般文書の翻訳ももちろん承っておりますので、ご安心ください)
注釈:
※1:弊社で独自作成した資料です。
※2:本文でご紹介した翻訳例は正解ではなく、あくまでも提案です。ご参考として留めていただければ幸いです。
参考サイト:
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、その後約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。現在はアフリカのガーナ在住、英語と地元の言語トゥイ語と日々格闘中。
編集者プロフィール
Satoko
字幕翻訳からキャリアをスタートさせ、以後は Web サイト、広告、販促資料などメディア・クリエイティブ分野を得意として日中英の翻訳案件での実績多数。手塚治虫と DC コミックスと中国映画をこよなく愛する。最近ボルダリングに興味あり。
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