2020 年東京オリンピックの年、ストレス耐性を高めて、強いメンタルを手に入れたいというのは、アスリートだけでなくビジネスマンの願いでもあるのではないでしょうか。
最近は、ストレスをためないためにマインドフルネスの視点や瞑想などを毎日の習慣に取り入れる方も増えていますが、今回はおおらかで小さな事を気にしない中国人から学べる秘訣について見てみましょう。
帰省ラッシュならぬ「民族大移動」
まもなく中国は春節を迎えますが、ご存知のように春節前後は「春运( Chūnyùn )」と呼ばれる中国独特の現象が見られます。春節には中国各地で働いている中国人たちが一斉に自分の故郷に帰るため、14 億人近くが大移動。列車は増便しても追いつかず、乗車率は半端ないことに。
かつてこの時期に、中国の四川省から北京まで移動したことがありましたが、「无座(席なし)」のチケットしか取れず、友人からアドバイスされるがまま、折りたたみの小さな椅子を持って、列車の連結部分に陣取りました。列車が駅に停車するたびにとてつもない荷物を抱えた「无座」の人々が乗車してきて、連結部分に詰め込まれ、立たざるを得なくなり、最後にはトイレも常時占拠されている状態になりました。
そんな状況でも売り子のカートが道を開けろとやってきますが、みんな体を必死にくねらせてスペースを空けてあげます。大声で怒鳴ったり、舌打ちするような人はいません。25 時間かかる道のりで、夜は睡魔が襲ってきますから、立ち続けていた人々も折り重なるようにして眠り始め、みんなで朝を迎えたときにはなんだか不思議な一体感を感じたのを覚えています。
さてこの「春运」、もし同じ状況に立たされたら日本人はどう反応するでしょうか?パーソナルスペースに敏感な私たちにはおそらく耐えられないことでしょう。極度のストレスを感じること間違いなしです。そのストレスは「なぜお金を払っているのにそれ相当のサービスを提供しないのか」という理想とのギャップからも生まれるのだと思います。
状況に応じて「自分を変える」スキル
中国には「穷则变,变则通,通则久( Qióng zé biàn, biàn zé tōng, tōngzé jiǔ )」ということわざがありますが、これは「ストレスフルな状況に直面した時は変化すべきであり、そうすれば障害はなくなり、物事は良い方向に向かう」という意味です。中国人は小さい頃からストレスフルな状況には「こうあるべき」という態度ではなく、「春运」の例からも分かるように目の前の状況に自分を変化させて、しなやかさに対処する方法を身に着けているように思えます。
1978 年から始まった「改革開放政策」を打ち出した当時の鄧小平主席は、文化大革命でボロボロになった中国経済を立て直すべく「实事求是( Shíshì qiúshì )」、「白猫黒猫論」を標榜しました。前者は「現実の状況に鑑みて対処方法を考えるべき」ということ、そして後者は「白猫でも黒猫でもネズミを捕るのが良い猫だ」ということわざに基づいており、どちらもイデオロギーにとらわれず、結果を出すことを重視したプラグマティズムの表れだと言えるでしょう。
つまり、中国は国家全体が中国の成語で言う「灵活变通( Línghuó biàntōng )」(状況に合わせて柔軟に問題に対処すること)を実践しているのです。
日本人からしてみれば、「そんないい加減な態度我慢できない!」と鼻息を荒くしてしまうかもしれませんが、ルールや体裁にこだわりすぎることが私たちのストレスを必要以上に増やしているようにも思えます。今年は日本人の真面目さにしなやかさを加味して、ストレスをできるだけためないようにしたいですね。
=======================================
著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、その後約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。現在はアフリカのガーナ在住、英語と地元の言語トゥイ語と日々格闘中。
Comments