中国ビジネスでは欠かせないツールである WeChat(微信、以下「WeChat」)の使い方について、前回の記事では「チャット」や「モーメンツ」について説明しました。第2回である今回は、WeChat の醍醐味ともいえる「決済やショッピングにおける使い方」について解説します。
WeChat を使った決済について
日本の店舗でも見かけることが多くなった「微信支付(WeChat Pay)」のサイン。中国語の「支付」は「支払い」のことですが、QR コードをかざすだけですぐに決済が完了するサービスで、日本でもすでに1万店を超える店舗が導入しています。本家の中国では導入店舗は100万を超えているといわれています。
日本でもここ数年で「PayPay」や「LINE Pay」、「楽天ペイ」が急速に普及しましたが、WeChat Pay のサービスが中国で始まったのはなんと2013年8月で、2015年7月には日本の百貨店でも導入され始めたというから驚きです。
中国でスマホを使った QR コード決済がかなり早い時期にスタートし、一気に普及したのには理由があります。それは店舗が偽札を受け取るリスクが減るからです。私が2008年に中国に行ったばかりのころ支払いに QR コード決済は使われておらず、買い物はすべて現金決済でしたが、紙幣を渡すと受け取った相手がひとしきり紙幣(特に100元札)を裏返したり、光に透かしたり、手触りを確かめたりして、偽札でないかを確認していたのを思い出します。
その後、中国では決済方法が QR コード決済から顔認証決済に、そして、いまでは「掌紋(手のひら)認証」へとシフトしてきています。WeChat の掌紋認証決済は2023年5月に北京の地下鉄の改札ですでに導入されており、今後、オフィスや学校、フィットネスクラブや小売店などでも段階的に導入される見通しとのことです。
コロナ禍で中国からの観光客が激減しましたが、今後徐々に来日数も徐々に回復することが見込まれているため、インバウンドを相手にビジネスをしている方なら WeChat Pay の導入はほぼ必須だといえるでしょう。また、店舗での QR コード決済だけでなく、オンライン決済も可能なため、中国のクライアントやユーザを対象にビジネスを行っている方にもおすすめです。
WeChat を使った決済方法
中国国内で WeChat Pay を使って決済するためには、WeChat のアカウントと中国の銀行口座を紐づけなければなりません。日本で中国の銀行口座を開設するのは困難ですので、クレジットカードと紐づけすることになります。
WeChat の運営会社であるテンセントがビザやマスターカードと連携し、海外のクレジットカードを利用できる体制を整えたのは2019年のことでしたが、その後コロナ禍によって中国への旅行者が激減したため、その取り組みも後退していたようです。しかし、2023年7月から私たちが日常的に日本国内で使用しているクレジットカードともリンクできるようになりました。
では、その手順を以下で説明します。
1.WeChat を起動する
2.画面右上の⊕を押し、「マネー」を選択する
3.「クイックペイは有効ではありません。有効にすると、ベンダーにコードを表示してすばやく支払うことができます」と表示されるので、同意して「今すぐ有効にする」をタップ
4.「カード番号」「カードの種類」に登録したいクレジットカード番号を入力する
5.カード情報の詳細を入力し「次へ」をタップ
6.6桁の支払いパスワードを設定する
7.パスワードを再入力して、「次へ」をタップ
実際に使用するためには、日本の「PayPay」などと同じくウォレットにチャージする必要がありますので、それもお忘れなく。
WeChat Pay の導入方法
もし店舗を経営していて、今後の中国からの旅行者にも対応できるように WeChat Pay を導入したいと思っているなら、代理店サービスの利用が一般的です。加盟店として登録するためには一連の手続き、審査が必要になります。また、中国での銀行口座の開設も必要になり、入金された代金を日本の口座に移すためにも多額の手数料が必要になるからです。
中国越境 EC にも WeChat が使える?
経済産業省によると、日本・中国・米国間の越境 EC は増加しており、2021年における中国の越境 BtoC-EC は総市場規模4兆7,165億円、前年度比10.7%でした。内訳は中国消費者による日本からの購入総額が2兆1,382億円、米国からの購入額が2兆5,783億円。逆に日本による中国からの購入額は365億円に過ぎませんでした。こうしたデータから分かるのは、中国消費者の日本製品への関心の高さです。
そのため、もし中国越境 EC への参入を考えているなら WeChat を使った EC やオンライン決済の導入は欠かせません。かつて、中国越境 EC といえば、淘宝(タオバオ)や京东(ジンドン)などの大手ショッピングモールの出店を検討することになり、そのためには厳しい審査や高額な出店料、運営費用が必要でした。
しかし、今では WeChat の機能の一部である「ミニプログラム」を活用することで、初期費用や運用コストを大幅に削減することができ、中国越境 EC の敷居も下がりました。
日本であまり耳にしないミニプログラム(中国語:小程序)とは、「アプリの中にあるアプリ」であり、その代表が WeChat というアプリの中のさまざまなミニプログラムです。ミニプログラムの最大の強みは、リリースした時点ですでに10億人以上のユーザがいるアプリに入り込めるという点です。また、WeChat にすでに登録済みのユーザ情報を使えるため、ミニプログラムでショッピングした場合、ユーザは改めて自分の住所や支払い情報などを登録する必要がありません。
ミニプログラムがどれだけ凄いかを比較するために、仮に日本の店舗が中国のユーザに向けて EC 展開する場合、自社 EC サイトを構築するケースを考えてみましょう。EC サイトの構築にはかなりの費用がかかるだけでなく、中国マーケットという大海原に出ていくためのマーケティング戦略も気の遠くなるような作業です。中国のユーザから運よく見つけてもらったとしても、購入する際には改めて個人情報の入力が必要になります。よほど使いやすい設計にしておかなければ、スピードを重視する中国のユーザがそこで離脱して、結局購入に繋がらない可能性も大いにあります。
このように WeChat のミニプログラムを使ってソーシャルコマース(SNS と Eコマースをかけ合わせて商品やサービスを販売する仕組み)を展開すれば、日本の小規模店舗であっても、コストを抑えつつ、中国ユーザを囲い込み、有利に中国越境 EC を目指せるのです。
最終回となる第3回では、メッセージの送信方法など、チャットツールとしてユニークな使い方について紹介します。
参考サイト:
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。
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