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執筆者の写真SIJIHIVE Team

実は深い翻訳業界⑩~翻訳者が持つべき IT リテラシー



2017年の翻訳白書によると、「派遣・アルバイト・社員として翻訳に従事している」人は13.5%でした。逆にいえば、9割近くの翻訳者がフリーランスとして活躍していることになります。

これだけ多くの割合でフリーランスの翻訳ができるのは IT ツールのおかげといえるかもしれません。IT の恩恵により、お互い世界のどこにいても受注、発注ができますし、複数の翻訳者が参加するプロジェクトもオンラインで進めることができます。今や翻訳者にとって デジタルに強いことは必須条件といっても過言ではないでしょう。


では、翻訳者としてデジタルにどこまで精通しておくべきなのでしょうか?今回の記事では、「翻訳者が持つべき IT リテラシー」をテーマに考えてみたいと思います。


プロジェクト管理ツールの使用


大きなプロジェクトには複数の翻訳者が参加し、プロジェクトマネージャーがそれを取りまとめることになります。プロジェクト全体の進捗状況や自分の担当範囲や納期を確認するのに便利なのが monday.com Basecamp などの管理ツールです。


従来のように、エクセルで作られたスケジュール管理表をベースにメールでやり取りしていると、必要な情報にアクセスするのに時間がかかったり、最新のファイルがどれか分からなくなったりします。必要な情報にアクセスするための事務作業に追われてしまうと、本業の翻訳に専念する時間やエネルギー、集中力を奪われてしまいます。


さて、そうした弊害を最小限にするためのプロジェクト管理ツールですが、無料のものも含めてたくさんのツールがあります。


弊社では Asana を使用していますが、クライアント社内で使用しているツールもさまざまです。問題はクライアントとの間に翻訳会社が入っていたとしても、翻訳者自身がクライアント社内で使用しているプロジェクト管理ツールでやりとりしなければならない、というケースが多々あることです。自分が使い慣れているツールなら良いですが、そうでない場合はまずツールに精通するところから始めなければなりません。




オンラインミーティングへの参加


管理ツールを用いたテキストだけのやりとりだけでプロジェクトが進む場合もありますが、最近はプロジェクト開始時にキックオフミーティングや、ツールの使い方を説明したり、トレーニングしたりする機会が設けられることもあります。


テキストベースのやり取りだけではどうしても情報の質や量に限界があります。また、別のメンバーのことを全く知らずにプロジェクトを始めるよりも、一度ミーティングを開催すれば一体感が持てますし、オンライン上であってもチームワークが醸成されるでしょう。


オンラインミーティングは Zoom や Microsoft Teams、Google Meet が使われることが多いようです。日本人同士のオンラインミーティングは初対面であってもカメラをオフにして話す場合もありますが、海外のメンバーは顔出しでやりとりすることが前提ですので心づもりをしておきましょう。


チャットツールの使用


メールよりもスピーディーにやりとりできるため、以前は Skype、最近は Slack などチャットツールを用いたコミュニケーションが求められることもあります。プロジェクト管理ツールと同様、クライアントによって好まれるツールもさまざまですし、同じ Slack でも複数のチャンネルに招待されることもあります。


その場合、こまめにログインしておかないとメッセージに気付かない事態も発生してしまいます。クライアントとのスピーディーなやりとりが妨げられないよう、Slack であれば「メッセージが来たらメールで通知する」をオンにしておくと安心です。



Slack の「環境設定」からメール通知をオンにできる

共同編集ツールの使用


数年前から増えてきたのが Google ドライブなどの共同編集ツールの使用です。スプレッドシートやドキュメントなどを使えば、複数のメンバーが同時に同じファイルを編集してもクラウド上で自動更新され、常に最新の状態にアップデートされます。さらにクライアント側から確認事項や修正があればコメントでタグ付けされ通知されるため、それに基づいて作業を進めていくことができます。


Google ドライブの使用に慣れていない、Google アカウントをあまり使っていないという方は一度使い方を見ておいた方が良いかもしれません。


翻訳支援ソフトウェア(CAT ツール)の使用


企業によっては CAT(Computer Assisted Translation)ツールでデータを一元管理し、翻訳プロジェクトを進める場合があります。これもクライアントによって使用するツールがさまざま。時にはちょっと癖のあるものにぶつかることもあるため、作業の前にマニュアルの読み込みが必須です。


ただ、一旦使い方に習熟してしまえば、何と言っても翻訳に特化したツールのため、作業の工数が格段に減らせますし、用語やスタイルを統一することができ、翻訳の品質向上につながります。

CAT ツールを日常的に使用しているフリーランスの方も多いと思いますが、以下によく使われる翻訳ツールをご紹介いたします。


​CATツールの名称

​特徴

​公式サイト

​SDL Trados Studio

​業界最大手の SDL 社提供。歴史があり、CAT ツールの先駆的存在だが、高額ゆえに初期導入にコストがかかる。

​Memsource

​モバイルアプリもあり、どこでも作業可能。人工知能や外部データ連携で作業時間の短縮を実現。

​Smartling

​翻訳者は作業しているコンテンツを直接見ることができるため、ソース素材のデザインへの影響をリアルタイムで把握できる。

​MemoQ

​クラウドべ―スの CAT ツールのため、作業進捗や翻訳メモリをリアルタイムに共有できるのが強み。新しいツールだが、比較的安価で利用者増加中。

​XTMCloud

​クラウドベースのツールでブラウザ上で作業するタイプ。管理者がライセンスを購入し、翻訳者に貸与する形で使用する。


複数アカウントの管理


何社ものクライアントと、いくつものプロジェクトを同時に手掛けるようになると、そのたびにアカウントを使い分けなければなりません。Shift など複数のメールや SNS アカウントを管理できるツールを使用するなどして常にすべてのアカウントをチェックできる体制を整えていく必要があります。


まとめ


以上、フリーランスの翻訳者に求められる IT リテラシーの条件を列挙してみました。ただ、IT リテラシーは本業の翻訳のパフォーマンスを向上させるためのものであり、習熟に終始するわけにはいきません。デジタルツールを使いこなすスキルはもちろんのこと、IT に振り回されないためにはかなりのセルフマネジメント能力が求められるといえるのではないでしょうか。


翻訳者の方々が IT リテラシーの質を高め、価値ある仕事ができますように。


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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。




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