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“本場”とは違う?日本で進化した中華料理の不思議

執筆者の写真: SIJIHIVE TeamSIJIHIVE Team

青い縁取りのある白い丼に盛られたラーメン。透き通った醤油スープに、細麺、大きなチャーシュー、半分にカットされた煮卵、海苔、刻みネギがトッピングされている。

2018年に中国から帰国して7年ほどが経ちますが、時々無性に中国の家庭料理(「家常菜」:Jiācháng cài)が食べたくなる瞬間が訪れます。帰国した当初、中国で日常的に食べていたような料理を食べさせてくれるお店は(少なくとも筆者が在住する福岡では)なかなか見当たらないと感じていました。


もちろん、これは日本で口にすることのできる「中華料理」が「美味しくない」ということではありません。美味しいんです!でも、本場の「中国菜(Zhōngguó cài)」とはほど遠い。これはつまり、日本の中華料理は日本人の舌に合わせて独自の進化を遂げたということです。


今回の記事ではもともと中国にあった料理をベースにして、日本で縦横無尽に進化を遂げた代表的な「中華料理」をいくつかご紹介します。



酢豚

豚肉とピーマン、玉ねぎ、人参の甘酢あんかけ酢豚。

日本で「酢豚」というと、下味を付けた角切りの豚肉に衣をつけて油で揚げたものに、ピーマンや玉ねぎ、ニンジン、パイナップルなどを甘酢あんでからませた料理を指します。


しかし、中国には日本でいうところの「酢豚」はありません。「糖醋排骨(Táng cù páigǔ)」や広東料理の「古老肉(Gǔlǎo ròu)」が近いかもしれません。「古老肉」にはパイナップルが入る点で日本の酢豚に近いですが、「糖醋排骨」には基本的に野菜は入らず、スペアリブのみが使われます。


パイナップル入りの「古老肉」は清王朝の時代、イギリス領だった香港やフランスの影響を受けていた上海で生まれたといわれています。当時、中国に滞在していた欧米人を相手に高級食材だったパイナップルを使ったことが始まりだったそうですが、当時のパイナップルは1個あたり90万円もしたとか。この「古老肉」が当時の満州を経て日本人に伝わり、今の酢豚の誕生につながったそうです。


「糖醋排骨」の作り方はこちらからどうぞ。中国語で何を言っているか分からなくても、映像で何となくお分かりいただけると思います。調味料も日本で手に入るものばかりです。



天津飯

白い丼に盛られた天津飯。ご飯の上に、卵とグリーンピースが乗せられ、醤油ベースのあんがかけられている。

天津飯は、白いご飯にかに玉とあんをかけた丼もの。天津飯の卵の部分は広東料理の「芙蓉蛋(Fúróng dàn)」に似ているともいわれますが、天津飯は完全なる日本生まれの中華料理です。


天津飯がどこで生まれたのかに関しては主に2つの説があります。


東京「来々軒」説と、大阪「大正軒」説です。東京の来々軒はラーメンをはじめて日本に持ち込んだことでも知られますが、客からの「スピーディーに食べられるものを」との要望を受け、かに玉をご飯にのせ、甘酸っぱい醤油あんをかけたものを「天津飯」として提供したといわれています。


大阪「大正軒」説は、戦後間もない食糧難のころが発祥です。山東省出身の店主が売り物なく困り果てていたところ、知恵を絞って天津の民間の習慣であったご飯におかずをのせることを思いつき、当時天津で多くとれたワタリガニを卵でとじてご飯の上にのせ、あんをかけたというものです。


後者の説では「天津飯」というネーミングに「天津」という場所が付く理由が分かりますが、前者では不明ですね…。



麻婆豆腐

茶色の器に入り、黒いスプーンですくわれる麻婆豆腐。サイコロ状にカットされた豆腐とひき肉が、赤いあんで煮込まれ、上にネギが散らしてある

日本の中華料理の定番ともいえる麻婆豆腐ですが、こちらはれっきとした四川料理です。ただ、中国では「麻辣豆腐(Málà dòufu)」と呼ばれることが多いようです。


日本の麻婆豆腐は甜麺醤(ティエンメンジャン)、豆板醤(トーバンジャン)で味付けされた優しい辛さが特徴ですが、四川料理の「麻辣豆腐」は名前の通り、「麻(痺れる)」と「辣(辛い)」のが特徴です。


四川料理の大きな特徴はまさに花椒を使った痺れる味ですが、「麻辣豆腐」はその代表格といっても良いでしょう。



ラーメン&餃子&チャーハン

青い花柄の縁取りがある白い皿に盛られたエビ入りチャーハン。スプーンが添えられ、奥には琥珀色の飲み物が入ったグラスが置かれている。

日本人が手軽な中華としてすぐに思い浮かべる「ラーメン」「餃子」「チャーハン」も中国では味や食べ方が異なります。まず、中国人にとってはどれも主食のため、日本人が食べるようにこれらの3つをランチセットにして一緒に食べるということはあり得ません。


ラーメンは「拉面(Lāmiàn)」、餃子は「饺子(jiǎozǐ)」、チャーハンは「炒饭(chǎofàn)」ですが、無理にカタカナ表記しようとすると「ラーミエン」「ジャオズ」「チャオファン」という感じでしょうか。


「拉」とはそもそも「引っ張る」という動詞で、中国で「拉面」というと「兰州拉面(Lánzhōu lāmiàn)」を指します。この動画から分かるように小麦粉の塊をどんどん引っ張りながら細麺に仕上げていくのです。


中国の麺について詳しく知りたい方はこちらも参照:食は中国にあり。多彩すぎる中国語の食表現①~麺を食らう!



また、日本では「焼き餃子」がメインですが、中国では圧倒的に「水餃子」が主流ですし、チャーハンで使われる油も半端なく、日本よりも油っこい仕上がりです。



まとめ


自の進化を遂げた中華料理はほかにもいろいろあります。しかし、これは考えてみればごく自然なことで、日本の寿司がカリフォルニアロールになるなど、現地の人たちの好みに合わせてユニークにアレンジされているのにも類似しています。


一方で2020年頃から主に日本に住む中国人や、来日する中国人観光客向けに提供される、いわゆる「ガチ中華」の動きもあります。そして、最近では手が加えられていない本場の「中国菜」を好む日本人も増えているようなのです。私としては日本にいながら本場の味もアレンジされた味もが食べられるようになり、嬉しい限りです。



参考サイト:



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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。


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