出入国在留管理庁が2024年10月に公表した資料によると、日本の2024年6月末現在の在留外国人数は358万8,956人にのぼり、2023年末比で17万7,964人増(5.2%増)で過去最高を更新したそうです。ちなみに在留外国人がもっとも多い市町村は埼玉県川口市で何と人口の約6.7%が外国人(2023年6月時点)とのこと!
また、訪日外国人も増加の一途を辿っており、2024年10月には331万2,000人で前年比で31.6%増でした。近年は SNS による情報共有などもあり、その行先はいわゆる観光地に留まらず全国各地です。
こうした外国人とのコミュニケーションのニーズに対応するため、日本各地で多言語翻訳の取り組みが始まっています。今回はその一部をご紹介します。
1. 自治体向け多言語音声翻訳アプリ「VoiceBiz®」
「VoiceBiz®」は TOPPAN 株式会社が提供する、自治体や地方公共団体向けの多言語音声翻訳アプリです。最大の特徴は外国人にとって分かりづらい行政・自治体用語を搭載している点で、窓口業務や多文化共生推進、外国人住民向けサービス向上に活用されています。
在留外国人の中でも特に人口が多い中国語・ベトナム語・フィリピン語(タガログ語)、ポルトガル語、スペイン語は音声とテキスト翻訳いずれにも対応していますが、それ以外にも音声翻訳は合計13言語、テキスト翻訳は合計30言語にのぼります。
実際に同アプリを導入している市町村の一つに栃木県宇都宮市があります。宇都宮市の在留外国人は約9,500人、国籍は約80カ国にも及ぶとのことです。英語や中国語の場合はスタッフの中に話せる人がいるようですが、他の言語だと即日の対応が難しく、せっかく来庁してもらっても、別日に来てもらうことも多々あったようです。しかし、「VoiceBiz®」の導入によりその場での対応ができるようになり、スピード感を持って外国人住民のサポートができるようになりました。
また、TOPPAN 株式会社と株式会社トヨタ名古屋教育センターは、「VoiceBiz®」の教習所版を開発し、全国の自動車教習所向けに2024年10月から販売を開始しました。同サービスは入校受付、学科教習、技能教習など自動車教習所業務で必要になる定型文や専門用語を標準搭載しています。
2. インバウンド対応向け多言語翻訳サービス「VoiceBiz®Remote」
同じく TOPPAN 株式会社が2024年11月に提供を開始した「VoiceBiz®Remote」は、観光ガイドや施設案内、接客、問い合わせ対応など、訪日外国人客への多言語対応を支援するオンライン AI 音声翻訳サービスです。ハンズフリー機能や通知機能、定型文機能などを備え、高精度な翻訳を提供します。
最大の特徴は「Remote」とあるように、その場にいなくても主催者が会話ルームを立ち上げ、離れた場所にいる外国人は自分が持つスマートフォンなどでインターネットに接続し、そのサービスを利用できる点です。外国人の利用者は主催者が発行した QR コードから会話ルームにアクセスすることで、専用アプリなどをインストールすることなく、「VoiceBiz®Remote」を利用できます。しかも、主催者はプッシュ通知により、利用者が画面を見続けていなくても発言した内容を知らせることが可能なため、移動が伴うシーンなどでも高い利便性を実現できます。
3. やさしい日本語の活用
総務省や法務省は、在留外国人への情報提供手段として「やさしい日本語」の活用を推進しています。これは、難しい言葉を平易な日本語に言い換えることで、外国人や高齢者、障害のある人々にも理解しやすい情報提供を目指す取り組みです。
やさしい日本語は、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに始められた「外国人に対する緊急時の言語対策研究会」および弘前大学の社会言語学研究室の調査・研究に基づいて、震災時の外国人に対する情報提供において外国語とともに用いることが提案されてきました。実際に東日本大震災の際にはその有効性が確認されたそうです。
日本語の言語的特性のひとつに主語や述語、目的語の省略が発生しやすい点が挙げられます。そのため、自明の事象やモノも含めて、省略せずに補うことが必要になります。例えば、「2週間後に提出してください」という文章であれば、「やさしい日本語」では 5W1H に関する情報を過不足なく追加することが求められます。
また、一口に外国人といっても何をもって「やさしい日本語」なのかは異なります。例えば、中国などの漢字圏の国と非漢字圏の国では、相手の日本語の読解能力も変わります。そのため、すべてを平仮名にしたり、ルビをふったりすることが「やさしい日本語」とも限らないという点を覚えておく必要があります。
さらに在留外国人の状況を考えると、受信者が情報を受け取って終わるのではなく、その受信者が新たな発信者となって家族や職場の同僚に情報を拡散することもあります。発信した情報がさらに翻訳される可能性があることを考えると、「やさしい日本語」をどのように定義するかは非常に難しい問題といえるでしょう。
4. まとめ~多言語対応サービスの必要性
多言語対応サービスの導入は、観光地や公共施設、ウェブサイトなどで進められており、外国人ユーザーへの情報提供やコミュニケーションの円滑化に寄与しています。これにより、訪日外国人や定住外国人が日本での生活や観光をより快適に過ごせる環境づくりが進められています。
これらの取り組みは、日本社会の国際化や多文化共生の推進において重要な役割を果たしています。多言語翻訳サービスの充実により、外国人にとってより住みやすく、訪れやすい日本の実現が期待されています。
参考資料:
『多言語翻訳サービス利用における「やさしい日本語」の活用に関する調査研究 報告書』
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。
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