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執筆者の写真S Satoko

情強になるための SNS 知識 ~『ヴォルデモート現象』とは何なのか?



現代人の生活に欠かせないもの ― 衣食住意外に「インターネット」「スマホ」「SNS」などという答えもあるかもしれませんね。SNS はもはや無視できない超巨大産業に成長しており、 そこでのトレンドが社会を映す鏡になっているといっても過言ではありません。


しかし、SNS 上での流行り廃りを正確に把握するのはとても骨の折れる仕事。マーケティング施策の成果が、SNS 分析の精度に依存している場合はなおさらです。今回はそんなネットの世界にスポットを当てて、ソーシャルメディアの世界で起こっているある面白い傾向をご紹介したいと思います。


実は SNS ユーザーは、投稿やチャットの中で、特定の用語や固有名詞の使用を避ける傾向があるそう。敢えてそれらのワードを使用しないことで、自分の発言から明確なトピックを戦略的に隠したり、印象を消したりするための手法です。この傾向はどこかで聞いたことのある人の名を冠して、『ヴォルデモート現象(Voldemorting)』と呼ばれています。


そう、「名前を呼んではいけないあの人」のことですね…。



SNS の 「pseudoanonymity」(擬似的な匿名性) とは


一言でいうと、SNS 上でユーザーが本名を伏せ、仮の名前を使う傾向のことです。

「Pseudo」 は 「偽の」 、「nym」 は 「名前」 のことで、「pseudonymity」で「偽名」という意味になります。SNS でいう「pseudonymity(偽名)」は、インターネット上の住民たちが使うユーザー名、ハンドル名、ログイン名、アバター名、SNS の ID など幅広いものを含むため、 これに「anonymity(匿名性)」をくっつけて 『pseudoanonymity(擬似的な匿名性)』 と呼ぶ方がしっくりきます。インターネット上で「完全に匿名」な人などいないからです。



人々はなぜ『ヴォルデモート』するのか?


SNS 上には、自分のアイデンティティを再構築するチャンスがあります。現実のしがらみや権力から逃れたり、歴史上の人物や架空のキャラクターになりきったりもできますよね。そんな中で、実名を使いたがる人は多くありません。

オンラインとオフライン、どちらにおいても自分のプロフィールのうち何をオープンにして、何を隠すべきなのか?というのは常に多くの人の悩みの種です。SNS 上で交わしたやりとりは第三者の目に触れ、後から消すこともできません。私たちは皆、「SNS 上の自分」と「実生活上の自分」の整合性を保つため、自然と頭の中で戦略を練っているのです。その結果、その 2 つのアイデンティティの境界線をなんとか維持したいという人々の渇望や、SNS 上の発言を自分だとすぐに特定されたくない、という心理が、発言をオブラートに包み込む『ヴォルデモート』という形で現れているのではないでしょうか?



SNS 上のコミュニケーションは、実生活と同じくらい面倒


SNS の『擬似的な匿名性』について調査を行った結果、SNS でのコミュニケーションはまさに人間の本質を映し出すかのごとく「解析が面倒」なものだったそうです。すべての SNS 上の情報をかき集めても、全人類の完全なプロフィールはつくれないでしょう。プラットフォームごとに異なる名前を使っていたり、Facebook 上で架空の苗字を使っていたり、一つのプラットフォームで複数のアカウントを持っている人がいたり…。逆に、SNS をまったくやったことのない人だっているでしょう。


不完全な情報が乱立するネット世界に『ヴォルデモート』がかぶされば、オンラインでのコミュニケーション分析は苦戦を極めることになるでしょう。キーワードとセンチメント(ユーザーの感情)の分析により、コミュニケーションのパターンを大まかに分類することは可能です。しかし、トーン、皮肉、古典やアニメからの引用、内輪ウケの内容、ダジャレなど、細かなニュアンスに隠された意図をすべて分析するのは非常に難しいといえます。

『ヴォルデモート』は、特定の用語や固有名詞の使用を意図的に避けることで、政治的な話題をそれと分からなくするための技術です(たとえば 「ドナルド・トランプ」 の代わりに 「45」 とか 「Cheeto」 と言ったり)。『ヴォルデモート』はマーケターやアナリストにとっては一種のカオスを生む存在となりますが、そもそも言語も人類も、もともと非常に混沌としたもの…だということを考えればそれも納得かも?



『ヴォルデモート』は増えつつある?


『ヴォルデモート』は、デジタル環境下での「検索よけ」として用いられてすでに久しいですが、話し言葉(口頭での会話)での利用だともちろんそれよりずっと長い歴史があります。皆さんも、会話の中で固有名詞を使う代わりに、ニックネームを使ったり、別の言い回しに変えたりしたご経験があるのでは? また、『ヴォルデモート』が不可欠となる良い例が、ツイッター上の「subtweet」(サブツイート)。サブツイートとは、他人の悪口をその人の名前を出さずに書くこと。「検索よけ」をするだけでは、権力者たちから自分の身を守るには不十分かもしれませんが、その動向を分析する側にとっては、おかげで仕事がとても面倒になってしまうんですよね。



あなたは SNS 上で『ヴォルデモート』を見たことがあるか?


トランプ大統領を批判する際、ツイッター上で彼に対するアテンションを上げ、皮肉っぽいニックネームで呼ぶ人がいますね。これも一例ですが、さらに面白いのが 2014 年から 2015 年にかけての『ゲームゲート問題(Gamergate phenomenon)』 (ビデオゲーム上の表現に関する大論争)で行われた『ヴォルデモート』の例です。ゲームゲート問題の論争が沸騰していたときは、女性ゲーマーが「荒らし」のターゲットにされました。彼女たちが、うっかりツイートに「Gamergate」 という言葉を使ったら最後、猛烈な嫌がらせを受けることに。そのため、 「Goobergaters」 のような急ごしらえの造語を使って『ヴォルデモート』することで、荒らしたちを呼び寄せずにゆっくり議論することができたのです。



コミュニケーションの専門家やメディアアナリストは、『ヴォルデモート』にどう対処したか?


ネットの住民たちは、残念ながらアナリスト側が分析しやすい方法で言葉やテクノロジーを使ってはくれません。分析する側はキーワードに着目したいにも関わらず、彼らが使うのはもっぱら言葉遊びやハッシュタグ、絵文字、ニックネームなどなど…で、キーワードの使用は意図的に避けているのです。

しかし、分析に有効なキーワードが使われないからといって、オンライン上のチャットを分析することが不可能だという意味ではありません。SNS 分析を行う際には、『ヴォルデモート』のようなノイズを考慮に入れなければならない、ということです。『ヴォルデモート』のおかげで、決して吐露されることのなかった人の「本音」を垣間見ることができるでしょう。これを起点として、人間の本質に対するより鋭い洞察が可能になる日も近いのかもしれません。



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