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執筆者の写真SIJIHIVE Team

えっ、そうなの?中国に「転勤族」がほとんどいない理由

日本で生活していると、「来年はたぶん転勤だからまた子供を転校させなきゃ」「これまで大阪→九州→名古屋と転々としてきた」という人やご家族に会うのは決して珍しいことではありません。


コロナ前の2017年に独立行政法人の労働政策研究・研修機構が発表した調査によると、「転勤は社命であるから、転勤命令に従うのは当然」という質問に対して「そう思う」と回答したのは79.5%、ほぼ8割にのぼったそうです。

この調査からも分かるように転勤命令を会社に下され、家族が一緒に動けなければ単身赴任という選択は日本のサラリーマンにとっては常識でした。



コロナ禍で転勤意識も変わる??


しかし、SAMPO ホールディングスが2021年12月に行った「仕事に対する価値観の変容に関する意識調査」によると、コロナ禍において44.4%の人が仕事に対する価値観に変化があったと回答。

具体的な変化として以前よりも「プライベートの活動」「暮らし」「家族」を重視したいと願うようになった人が増え、その割合は「今の仕事」や「将来的なキャリア」を大事にしたいと考える人よりも多いことが分かりました。


テレワークの導入などにより、時間や場所にとらわれない働き方ができるようになったことが背景にあると考えられますが、これがもしかしたら日本人の転勤や単身赴任に対する考え方を変えるかもしれません。


ただこの「転勤」というシステム、世界的には異例といわれており、中国でも経営層の人事は別にしてあまり多くはありません。

今回はこの「転勤」をテーマに中国と日本の働き方の違いを考察してみたいと思います。


中国はそもそも「転勤小国」



「中国で転勤が少ない」というと意外に感じる方も多いかもしれません。なぜなら、上海や深圳、北京などには多くの地方出身者が住んでいるからです。


しかし、中国において大都市に集まっている人たちは会社の転勤命令ではなく、自分の意思でやってきた人たちばかりです。農村や地方の小さな都市では仕事がなかなかみつからず、仮に見つかったとしても収入が少ないため、より多くのお金を稼ぐ機会を求めて大都市、主に沿岸エリアに人が集まっているのです。


その観点でいえば、もともと大都市で働いていた人が地方の小さな都市に自ら移動することはかなりのレアケースですし、会社が「転勤命令」で大都市の人員をわざわざ地方へ動かす必要性もありません。なぜなら、支店や支社を立ち上げられるような規模の都市であれば雇用する人材はやまほどいるからです。


親の出稼ぎに伴う弊害も


しかし、農村や地方都市から大都市に出稼ぎにいく人たちがあまりに多いため、中国では「留守児童」という深刻な問題が起きています。


貧しい農村から両親ともに出稼ぎに行ってしまうため、残された子どもたちは親からの世話や感情的なつながりを得られず、中には深刻な精神疾患に陥ったり、自殺したりする子たちもいるといわれています。そうした留守児童の数は中国全土で約6,000万人、中国の総児童数の20%にも上るそうです。

中国では農村と都市の戸籍は完全に分離されており、基本的に変更できないため、親は子どもたちを連れていくことができませんが、そこまでしても出稼ぎするのは農村の貧困状況ゆえといわれています。



逆に「転職」がメジャーな選択肢


また、そうしたのっぴきならない事情を別にしても中国人たちにとって仕事とは多くの場合、自分と家族が豊かになるための手段という側面が強いように感じます。そのため、愛着がある仕事であっても、別に高い給料を支給してくれる会社であればあっさりと転職することはよくあることです。ましてや、わずかの家族手当や単身赴任手当で会社にいわれるがままどこにでも行くという発想はありません。


さらにいえば、中国でも日本でも生まれ故郷を大切にするのは共通していますが、「以食為天(食を以て天とする)」という言葉もあるように、中国人は特に地元の食、味を大事にします。それは中国が広大で、日本以上にそれぞれの場所の気候や農作物が異なるため、味や料理法にも大きな違いが出るからです。


私が今でも覚えているのは料理の味付けが辛いことで有名な湖南省の友人たちと香港に旅行にいったときのことです。わずか数日間の予定だったにもかかわらず、彼らは薄味を特色とする香港の料理を食べるたびに「おいしくない」「食べなれない」と文句をいいながら、持参した唐辛子の調味料を取り出し、自分たちなりに味を調整していました。


こういう事情もあり、一般的に中国の人たちは自分の地元の、料理をとりわけ誇りにしています。そんな人たちが会社の命令で自分が食べなれない料理、住み慣れない気候で生活することを良しとするとは考えにくいのです。


日本人にとって転勤が当たり前の理由



ただ、日本でも転勤に伴う弊害はいろいろと指摘されています。家族、とりわけ学齢期の子どもは新しい環境に馴染めないこともありますし、単身赴任の場合は二重生活に伴い家族が崩壊したり、経済的な負担がのしかかったりといった問題です。


それでも日本の人たちが一般的に「転勤やむなし」と考えるのはいったいなぜなのでしょうか?


東北大学大学院の高橋章則教授は自著『江戸の転勤族』(平凡社)でこのように指摘しています。


『江戸時代にこうした転勤族を求めるとすれば、江戸幕府のキャリア官僚である「代官」が思い浮かぶ・・・したがって、地位の向上と将来の江戸暮らしの永続化を求める代官たちは地方の代官所勤務を通じて自分の支配能力を精一杯アピールする。出世スゴロクの上がりを目指して猛進するのだ』


この視点によると、日本の転勤制度の背景には歴史と絡んだ日本人のメンタリティーが深く根を下ろしていることが分かります。つまり、わたしたちは会社にいる限り転勤を繰り返すことで自分の能力をアピールしているのです。「自分はそれだけ会社に重用されている」ことを転勤を通じて実証しようとしている側面もあるのかもしれません。


自分と家族の豊かさを大事にする中国の人たち、家族と自分を大事にしながらも会社にも居場所を求める日本の人たち、その文化的な背景が「転勤」という制度にも反映されているような気がします。


参考文献:

日本社会から「単身赴任」がなくならない、根本的な理由

「仕事に対する価値観の変容に関する意識調査」を実施、SAMPOホールディングス

中国、経済格差のひずみ「留守児童」6000万人の実態


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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。

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